ちょっとSpotlight:「ラグビー日本代表戦の医務室業務を経験して」(同窓会報434号より)

 私は高校からラグビーをしており,現在も社会人のクラブチームに所属し選手として活動しています。そのため,仕事でもラグビーの現場で携われるようにと思い,臨床歯科研修医修了後,東京歯科大学の口腔健康科学講座スポーツ歯学研究室の大学院に入局し,マウスガードや外傷時の処置などについて日々研鑽を重ねていました。大学院時代から,提携していたプロラグビーチームのマウスガード製作や,試合時に歯牙外傷があった選手の治療を行っており,ラグビーに関わりながら歯科医療に従事していました。しかし,ラグビーの試合会場やグラウンドレベルなど現場で携わることは多くありませんでした。今回,同窓会専務理事の小枝義典先生のご協力のもと,8月5日に秩父宮ラグビー場で行われた“リポビタンDチャレンジカップ2023日本対フィジー戦”における,歯科医師として選手に対する医務室業務を務めさせていただきました。
 当日は猛暑の中,ラグビー場前には多くの観客者が開場待ちをしており,外苑前駅近くまで並んでいました。また開場後は待ちに待ったように観客席に流れ込んでいき,物販コーナーにも多くの人が並んでいました。試合の来場者数は22,137人で満席でした。
 キックオフ約2時間前に,医務室業務を行う医師・歯科医師・看護師が集合し,ミーティングをし,試合時の緊急対応の確認,搬送先の確認,使用器具・器材の確認,担架搬送の練習などを行いました。歯科医師の業務としては,外傷を受けた歯牙・口腔周囲に対する応急処置,顎顔面部の骨折などにおける搬送病院への連絡などを行い,医師の業務は,グラウンドサイドで対応する先生と医務室で対応する先生で行うようになっており,医師数名で分担されていました。また選手だけでなく観客者に対する医務室業務もあり,観客者に対応する必要があった場合は,救命救急ボランティアスタッフ十数名の協力のもと対応するようになっていました。開始時間が近づくにつれ,緊張感が増していきました。
 日が沈み,日中の暑さも少し落ち着き風が吹く中,開会式が始まりました。両国の国歌斉唱の後,フィジー代表はシビ(ニュージーランド代表のマオリ族のハカ,ウォークライと同様の伝統的文化儀式)を披露し鼓舞しており,日本代表はそれに立ち向かうように闘志を燃やして肩を組んでいました。その後,キックオフの笛の音とともにボールが高く上がり,身体が激しくぶつかり合いました。学生の頃は観客席で試合観戦をよくしており,試合に夢中になって応援をしていましたが,今回は医務室業務を行うということもあり,試合前のミーティング時から緊張感が高まっていました。待機場所は,直ぐに移動できるようにと観客席のグラウンド出入り口付近にいました。コンタクトプレーが起こる度に怪我をしていないか,うずくまっている選手がいると大丈夫かなどと緊張が走りました。しかし,試合が進むにつれ,1人のラグビーファンでもあるため観入ってしまい,応援に熱がはいることもありました。前半は0対21で終了し,前半終了時に医務室に戻り両チームに受傷者はいないか確認を行った後,後半が始まりました。後半も前半に引き続き激しいコンタクトが繰り返されていましたが,観戦している時の緊張感は前半より軽減しました。しかし,ノーサイドになるまでは気が抜けない状況でした。日本代表は後半残り10分に続けて2トライをしましたが,点差が縮められず12対35という結果でノーサイドとなりました。
 医務室業務はノーサイドになった後も気を抜けず,両チームに最終的に口腔・顎顔面に外傷を受けていないかを確認し,受傷していた場合は応急処置や救急搬送の手配を行うこととなります。今回は,医科・歯科の両分野において大きな怪我はなく,無事に医務室業務を終了することができました。今回,歯科分野における外傷はなく終えられたことには安心しました。これもマウスガードを装着する選手が増えており,マウスガードの普及によるものと考えられます。顎・口腔周囲の外傷予防のため,ラグビーなどのコンタクトスポーツだけではなく,全てのスポーツを行う人にも,今後もマウスガードの普及活動は必要と思われます。そのため,選手だけではなく,競技スポーツに携わるトレーナーやスタッフにもマウスガードの重要性などを伝え,マウスガードの普及活動を行えたらと考えています。これから,リーグワンや大学リーグなど日本国内の試合が多数行われます。また今年はラグビーワールドカップフランス大会があり,日本代表も参加していましたが,予選敗退でした。リーグワンにはラグビーワールドカップに出場した各国の代表選手も出場するので,試合観戦が楽しみです。
 最後に,“リポビタンDチャレンジカップ2023日本対フィジー戦”の医務室業務を務めさせていただけたことは,とても貴重な体験でした。いつも観客の1人として観ていた試合も,大会スタッフの1人として観るのは異なる感覚でした。また国際試合に対して,大勢の医療従事者・関係者が関わっていることを実感できました。このような経験をさせていただけたのも,小枝先生のご尽力があってのものであり,感謝いたします。今後もこのようなグラウンドなどの現場で活動を行えればと思っています。

(平成26年卒 松田祐明 記)