講座紹介:小児歯科学講座/健康な永久歯列であり続けるための基盤を担っています。(水道橋病院 小児歯科 & スペシャルニーズ歯科(小児))(同窓会報431号より)

 平素より⼩児歯科に患者さまをご紹介くださり,誠にありがとうございます。ニュースなどでは少子化が話題になることもありますが,タワーマンションが増加している都⼼部では事情が異なっており,東京都⼼部では年少⼈⼝は大きな減少はありません。⼩児歯科外来の患者もコロナ流行の影響はあるものの,増加傾向にあります。
 ⼩児患者の増加に応えるために,⽔道橋病院の改装に合わせて診療室も拡大されました。スペシャルニーズに対応した診療室を含め計8台の治療椅子があります。現在,医局員は教員4名(教授1名,講師3名)にレジデント,大学院生,臨床専門専修科生15名が診療にあたっています。小児の齲蝕自体は減少していますが,重症齲蝕の小児はまだまだ多く,患者の来院動機はやはり齲蝕治療が最も多くなっています。他の来院動機としては埋伏歯や萌出困難歯のような萌出異常,過剰歯や歯の先天欠如の歯数異常が多く,小児の成長過程で起こるこのような問題に対し「適切な時期に適切な対応をする」ことが小児歯科では重要なことです。小児期の口腔管理は言うまでもなく,成人期以降にもつながる大切なものです。乳歯列期に問題があってもそれを修正し改善していくことで,将来は健康な永久歯列となることを目指していきます。

 診療内容では主に埋伏歯や過剰歯などの萌出異常や歯数異常があった小児の不正咬合や機能性の不正咬合に対して,10年以上前から矯正歯科と合同で第1期治療を行なっています。また矯正歯科で治療中の患者の埋伏歯の開窓や形態異常歯の歯冠形態修正などを矯正歯科と連携して行なっております。特に歯の萌出や歯列の成長に心配な点がありましたら,ご紹介いただきたいと思います。
 また都心では地域に障害者歯科診療所(センター)が多く設置されているため,紹介患者が中心ですが,障害児・者の治療を行なっており,歯科麻酔科とも連携し治療にあたっています。特に障害者であっても小児期には小児歯科的な治療が必要であり,スペシャルニーズ歯科の役割も担っています。
 最近の小児歯科のトピックスとしてはMIH,低ホスファターゼ症,小児口腔機能発達不全症などがあります。今回はMIH について簡単に紹介します。

MIH(Molar Incisor Hypomineralization)

 通常,全ての第一大臼歯と1歯以上の切歯が罹患するエナメル質形成不全です。症状の重症度は左右対称ではないことが特徴で,軽微なものも含めると日本人では5〜9人の1人にみられるようです。原因はわかっていませんが,影響が出ている歯の形成時期から,出産時の障害,早期産児,授乳期あるいは生後1年以内の病気,抗菌薬投与,ビタミンD不足などが考えられています。齲蝕との鑑別が必要ですが,エナメル質形成不全なので萌出直後から着色や実質欠損があることや齲蝕検知液には染まりにくいなどの特徴から判別できます。
 対応は発見次第速やかにグラスアイオノマー系のシーラントあるいはグラスアイオノマーセメントでの充填を行います。エナメル質形成不全があるので外れやすいのですが,外れたら再度充填することを繰り返し,萌出と咬合の安定を待ちます。形成不全が重度でセメント充填では不十分な症例では既製金属冠修復を行います。いずれも咬合が安定した後に最終的な修復を行います。

 このMIHのように小児の齲蝕が減少していくにつれ,新たに注目される疾患が出てきています。おそらくMIH に関しては齲蝕が多かった時代には齲蝕として扱われることが多かったでしょうし,口腔機能発達不全症に関する取り組みは以前から行われていましたが保険収載により対応しやすくなりました。時代とともに役割が変化しつつある小児歯科ですが,健全な永久歯列育成という目標は変わりません。大学病院としての役割を果たしてまいりますので,同窓の皆様におかれましては引き続きご紹介をお願いしたいと思います。

新谷誠康(小児歯科学講座教授)
辻野啓一郎(小児歯科学講座講師)