事業推進部常任理事
小林慶太
(東京歯科大学同窓会会報 平成25年10月号/第393号より)
若手同窓の同窓会離れが懸念されている。卒業と同時に同窓会会員となり退会規定はないのであるから,同窓会離れと言っても会員数が減少することではない。しかし,現実には支部未加入による同窓会離れが指摘され,課題となっている。
日本歯科医師会に目を向けても,これから歯科医師会を背負うべき年代の会員数が目に見えて少ない状況である。
同窓会に帰属意識を持たない会員の増加は,結果的に日本歯科医師会未入会者増加による組織力の低下を招き,延いては歯科医療の地盤沈下を誘引することとなる。国民の歯科口腔保健を担う組織が確固たるものでなければ,歯科保健行政は迷走し歯科医療従事者として,歯科医療に誇りと夢の持てる将来を期待することは出来ないであろう。
平成24年矢﨑執行部の発足と共に,事業系委員会である保険,学術,若手ネットワーク,大学連携,シンクタンクの各委員会が事業推進部として活動している。
これまで,若手同窓の同窓会離れへの対応を目的として,「若手支援セミナー」「新進会員の集い」「卒後5年目のクラス会支援」が実施された。若い同窓が同窓会に関心を示し,同窓会への意見を聞く機会を設けることはできたが,その効果は期待に十分応えたとは言えないのが現状である。
この2年間の学術事業についてみると,TDC卒後研修セミナーと専門性の高いインプラントセミナーを開催してきた。なかでも,卒後研修セミナーにおいて,若手・臨床研修医向け学術セミナーの開催,臨床研修医割引受講料の設定など,卒後間もない同窓が参加しやすい内容と受講料を提供し,若手支援を行っているが目に見えるような効果は現れてはいない。
周知のように,TDC卒後研修セミナーは1970年代の歯科セミナー黎明期に,ポストグラディエートコースの先駆者として始まった。生涯研修の支援として歯科医師にとって必要な知識と技術の修得を目指して,時代に応じたセミナーを企画開催し今日に到っている。
しかし,臨床研修医制度の導入,各種歯科研修セミナーの林立,歯科医師会の組織力と公益性の向上を目的とした,大学,日本歯科医師会,同窓会が連携した新たな歯科医師研修システム構想など,歯科研修環境も大きく変わり,これまでの学術事業の目的を見直す必要性が感じられていれる。
一方,同窓会執行部では,平成27年に同窓会120周年を迎えるにあたり,これまでの事業を見直すことを目的とし,同窓会アカデミア構想が検討されてきた。この同窓会アカデミア構想とは,優れた歯科医師として国・行政,歯科医師会,地域医療で活躍し,リーダーとなれる人材の育成とその体制作り。品格のある歯科医師を育む環境の醸成を,同窓会事業として進めるものである。
今年も,本学は国家試験合格率の全国トップを飾ることができた。大学教育においては教職員一丸となり,歯科医師のスタートラインに立つための国家試験合格に向け,優秀な卒業生を送り出している。国家試験に合格し歯科医師として第一歩を踏み出した彼らが,専門職として歯科医学と歯科医療の発展に寄与し,医療倫理を実践するためには専門知識の修養と「品格の涵養」がとても重要である。同窓会事業としてその場を提供することこそ,学術事業の新たな目的となる。
血脇守之助先生の「歯科医師たる前に人間たれ」の精神を継承する,本学同窓の魂をまさに具現化することでもあろう。
そこで,同窓会事業の転換として同窓会アカデミア構想を提案したい。若手・新進会員の臨床力向上を目的としたものから,最新の知識と技術を修得するセミナー,人間性を高める素養としてリベラルアーツを身につけ,人材を育てる場と情報の提供である。
歯科医療界の地盤沈下を止めるためにも,若手からベテランまでの全同窓が参加し享受できる,同窓会アカデミア構想の基幹を確立し体制作りをすることが,同窓会の新しい使命ではないだろうか。
120周年を迎える平成27年,同窓会は歯科界の魁として,新たな一歩を踏み出そうとしている。