私の臨床ノート「欠損歯列をどう見るようになったか」(その2)欠損歯列の病期と病型(同窓会報第400号より)

私の臨床ノート「欠損歯列をどう見るようになったか」(同窓会報第400号より)/宮地 建夫(昭和42年卒)
宮地 建夫(昭和42年卒)

(その2) 欠損歯列の病期と病型

1.病期と病型

 どのような原因で欠損歯列になったのかという成因の詮索も確かに大切ですが,慢性タイプの疾患では,継続する病状の流れを見極めることも忘れてはならないはずです。病状の流れをみる見方は「病期と病型」という2つの視点でとらえられます。病期とは進行段階(ステージ)のことで,たとえば乳がんの進み具合を,しこりの大きさやリンパ節への転移のあるなし,皮膚などへの広がりなどを指標にしたTNM分類があり,病期1からIVまでのステージに分類されています。その進行ステージはどのような治療を選択するかに反影されます。もう一つの見方に「病型(タイプ・パターン)」があります。糖尿病なら1型糖尿病とか,2型糖尿病,あるいは二次性糖尿病といった病型を診断していくわけです。欠損歯列もこれと同じように「病期と病型」を読んで,何に気をつけなければならないか,どのように患者に説明していくかを考えていくことになります。

2.欠損歯列の病期

 欠損歯列の病期をみるには喪失歯数と咬合支持数の減少レベルを指標にすると簡便で臨床的だと思います。歯数や咬合支持数は欠損歯列の進行度を表していますし,その進行レベルを患者の年齢で評価することで,進行速度を掴むことができます。
 今回は歯数や咬合支持数を年齢軸で捉える「歯の生涯図」を説明します。前回の咬合三角と合わせ,欠損歯列の病期がイメージできるだろうと思います。

3.病期と歯の生涯図

 図1は診療室に訪れた患者さんの年齢平均の歯数と咬合支持数を集計し,グラフ化したもので「歯の生涯図」と呼んでいます。

  1. Y軸の数字は上下顎合計歯数と咬合支持数の2つを兼ねています(智歯は除きます)。
  2. X軸は5歳間隔の年齢です。
  3. 線Aは初診時の平均歯数の年齢推移です(1990年代に集計した診療室のデータでその当時のN数は大体1200人程度でした)。
  4. 線Bは初診時の平均咬合支持数を集計したものです。
  5. 線Cは2014年8月に再集計した平均歯数で,初診時ではなく経過後つまり最近の平均歯数のデータです。
  6. 症例1の初診54歳時での歯数(点A)と咬合支持数(点B)の位置を表します。
  7. 線Dは20歳代から初診時までの喪失傾向を表し,線Eはこれからの喪失傾向を仮に示したものです。

4.生涯図と喪失速度

 症例1は初診時54歳で16歯ですから,その年齢の平均22歯と比較すると8歯も喪失が多い(進行している)ことが分かります。16歯は67歳の平均歯数なので実年齢は54歳ですが,歯列年齢は13歳も老け込んでいるとみなすこともできます。20歳から初診時までの速度は(28-16)歯/(54-20)歳。10年間に約2.4歯の喪失速度で進行してきた計算になります。このままの状態で60歳代70歳代へ入ると,さらに増齢リスクが加わり喪失速度は加速されることがグラフから予想されE線はさらに急坂になることも考えられます。歯数より咬合支持の劣化は一般に速く,この症例1も咬合支持数7(点B)でこの年齢で健全歯列の半分になり,要注意の位置を示していることが分かります。

5.欠損進行速度の意味するもの

 経過を集計してみると患者の過去(初診時まで)の歯の進行速度は,その後の流れや速度に繋がることが多いということが分かります。初診までにゆっくりとした速度で進行してきた患者さんはその後も比較的穏やかな喪失スピードで経過することが多いようですし,逆に初診までに早い速度で欠損進行してきた患者さんはその後も喪失速度が速いと疑ってもいいようです。
そのような傾向はラフですが将来リスクの予測に結びつく指標となると考えています。

6.欠損歯列の病型

 欠損歯列の終末は無歯顎だと考えるのが普通ですが,機能的にも臨床対応の困難さからも「咬合支持の喪失(咬合崩壊)」の時点が実質的な終末だと考えた方が臨床実態に合うようだと思っています。その咬合支持の喪失という終末は歯が存在していても,その歯が咬合支持していない,「EichnerC1やC2」になった状態のことです。そのときの終末像は無歯顎とは異なり,歯の分布にいくつかのパターンがあり,それを“欠損パターン”と呼ぶことにしました。これが「病型」に相当すると考えています。なぜこの病型を問題視するかというと,どのような終末パターンに向かっていくかを読むことで,歯列が臨床対応の難しい重症化へ向かわないように,何らかの臨床対応が取れるのではないかと期待するからです。従って一時点での欠損パターンを読むことよりも,どの終末へ向かっているかというコースを含めて「病型」と捉えるべきだと思っています。歯科の病態診断はそうした一連の流れ・プロセスを理解することだと思っています。

7.咬合崩壊の主な欠損パターン

 咬合が崩壊した状況にはすれ違い咬合(EichnerC1)と片顎無歯顎(EichneC2)というパターンがあり,片顎無歯顎には上顎が無歯顎と下顎が無歯顎の2つのパターンに分かれます。初期の段階ではどの終末に向かうかの区別は困難ですが,欠損歯列は連続疾患ですから喪失拡大が進むにつれ,しだいにどの終末パターンに向かっているかを予測することが可能になりますし,予測することか大切だと思っています。図2の右側にCummer分類のパターン44 パターン57 パターン8 パターン53の4つを代表例として,終末パターンをイメージしやすいように並べてみました。そしてそこに向かう過程を結ぶとコースが見えてきます。目の前の症例がどのコースのどの段階にいるのかを推測することにしています。

8.Cummer の分類(1942年)

 Cummer の分類(図3)は上下顎を6つのブロックに分け,ブロック内に歯の有る無しを基準にして,健全歯列から無歯顎まで全てを64パターンに分類しました。単純化していますが欠損歯列を病型としてイメージするには優れた分類法だと感じています。繰り返しますがこのパターンを歯の喪失進行にそって結んでいくと,欠損歯列の動的なプロセスが一連の流れ(コース)として浮かび上がるために,その流れの先に見えてくる将来リスクにどのような臨床対応を選択するかという意思決定に示唆を与えてくれるのではないかという期待も持っています。

9.Cummer の分類と病期

 ただし,この分類はパターンという病型を示すもので病期(進行レベル)を表現したものではないので,使い方には注意が必要です。パターン1が欠損歯列の初期レベルで,番号が大きくなると終末レベルを表すかというと,そうでもないことが多いからです。現在のところ,このパターンという指標が症例の将来リスクや臨床対応に結びつくとは思いますが,個々の経過の良否にどの程度具体的に反影してくるものなのか,不明確なところも少なくありません。むしろこれからの臨床課題で,それには長期経過の蓄積や臨床疫学的な検討が必要になるはずです。

文献)

  • Cummer, W. E : Partial denture service. American textbook of prosthetic dentistry (Anthony, L. P. ed) 719-
    721 Lea & Febiger, Philadelphia 1942
  • 宮地建夫:上下顎の喪失歯数バランスについて 歯科學報 第106巻1号 p1-4 2006年2月

注)ここに掲載されたグラフの原図がご希望の方は“hk6t-myc@asahi-net.or.jp”へご連絡ください。
次回は,欠損歯列のコース(病型と病期)を説明します。
次回は,その1と2で説明してきた病期と病型という視点をベースにして,実際の症例をどのように読んだかを取り上げたいと思っています。



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