愛知県支部/平成30年度 社会保険研修会・学術講演会

 7月22日(日)13時より,愛知県歯科医師会館にて平成30年度東京歯科大学愛知県同窓会社会保険研修会・学術講演会が開催されました。
 初めに鈴木副会長の開会の辞,橋本会長より挨拶があった後,愛知県同窓会の会員であり,愛知県歯科医師会社会保険部次長の丹羽克誌先生(平成4年卒)より「今回の保険改定を受けて」という演題で社会保険研修会が行われました。東海北陸厚生局への定例報告の提出についての説明と,歯初診の提出が42.3%とまだ低く,未提出ですと10月から点数が下がってしまうので,感染防止対策を行っている方は9月末までに必ず提出して頂きたいとの事でした。その後,疑義解釈(その5)について詳細な説明が行われました。
 引き続き学術講演会が開催されました。講師は東京歯科大学水道橋病院の副病院長で口腔顔面外科学准教授・病院教授の髙野正行先生(昭和57年卒)にお願いいたしました。日々の歯科臨床において外科的処置や手術を伴う観血処置が必要になる場合があります。しかし時代は超高齢化社会を迎え生活スタイルの多様化などに伴い,これらの処置にあたっては今まで以上に医療安全を見込んだ十分な配慮が必要となってきます。今回は髙野先生に「外科小手術のチェックポイントと水道橋病院口腔外科の現状」について講演していただきました。最初に智歯抜歯の要点についてお話いただきました。特に下顎智歯が抜歯困難な理由をあげられ,下顎智歯の抜歯の難易度について除去する周辺の骨量,神経との位置関係,歯根形態,歯根膜空隙の有無などの項目についてそれぞれ説明がありました。とくにレントゲン写真から下顎枝前縁第2大臼歯遠心面までの距離,咬合平面を基準とした埋伏の深さ,咬合平面に対する智歯の傾きから智歯抜歯の難易度の判定の解説は非常にわかりやすいものでした。
 抗菌薬の使用法では歯科で使用されている抗菌薬,最近の鎮痛薬の紹介と抗菌薬の予防的投与,アスピリン喘息やインフルエンザ脳症への薬剤投与の注意事項をお話いただきました。骨吸収抑制薬関連顎骨壊死については2016年の顎骨壊死検討委員会ポジションペーパーの解説と医師と歯科医師が相互に連携をとって患者にとってベストと考えられる治療を行なうことが大切であることをお話いただきました。
 続いて抗血栓薬療法患者の抜歯についてと止血法について解説していただきました。特にワーファリンを内服している患者さんの抜歯については
 ・INRが3.0以下なら抜歯可能
 ・INRは抜歯の72時間以内できれば当日に測定する
 ・十分な局所止血を行なう
 ・抜歯後の鎮痛剤の投与は慎重に行なうこと
などの注意事項を症例を提示して一連の流れの中で解説していただきました。安全な歯科医療を行なうために主治医に対診して正確な情報を得ることがまず治療の第一歩であることを再確認できました。止血においては事態を予測し十分な時間をとってあわてず,前準備も必要であることを痛感しました。
 偶発症とその対策では下口唇麻痺への対応,上顎洞穿孔時の対応と注意,気腫の原因とその予防,誤嚥,誤飲の予防と対応を動画を交えて説明していただきました。スリーウェイシリンジ,エアータービンから出される空気の勢いとその量には驚かされました。歯科医院での救急対応では血管迷走神経反射,異常高血圧,過喚起症候群,狭心症の発作と急性心筋梗塞,アナフィラキシーショック,気管支喘息,蕁麻疹についてそれぞれの説明・解説と使用薬剤と使用方法をお話していただきました。最後に歯科医療現場の特徴をふまえた感染の予防策,標準予防策(スタンダードプリコーション)について説明していただきました。
 髙野正行先生には当日名古屋で開催されていた他のシンポジウムのスケジュールを短縮していただき,慌ただしくお迎えしたのにもかかわらず,ゆったりとして落ち着いた口調で水道橋病院口腔外科の現状から,智歯抜歯の要点から抗菌薬の使用方法,感染予防対策に至るまで,現在の歯科医院で必要なすべての項目について丁寧にご講演していただきました。感謝申し上げます。
 講演会は長谷部副会長より閉会の辞が述べられた後,アパホテル名古屋錦において懇親会が小関専務による司会のもと,和気藹々とした雰囲気のなか開催されました。

(昭和57年卒・久野 昌士 記)