100マイルの世界/大多和 昌彦(平成元年卒)

 みなさまは100マイルと聞いて何を想像されるでしょうか?1マイルが約1.6キロメートルですので,おおよそ160キロになり,東京からだと軽井沢を軽く越えてしまうほどの距離になります。
 山の登り降りを繰り返しながら,この距離で合計では9,000メートルほどの高さを登るようなレース(もっと長くきついものも)が世界にはいくつかあります。足で走ることについてはマラソンなどと一緒ですが最近,日本でもブームのトレイルランニングとして紹介される種目です。
 今回はヨーロッパアルプスにありますモンブランをぐるりと1周(166キロ,制限時間46時間でフランスからイタリア,スイスと周り再びフランスまで戻る)まわるウルトラ・トレイル・ド・モンブラン(一般的にはUTMB と呼ばれることが多いです)に2年にわたり参加した時のことなどについて書かせていただきます。
 自分がこのレースの存在を知ったのは2008年頃に雑誌で見たのが最初でしたが,自分が参加することなど夢にも想いませんでした。2009年11月29日にNHK で放送された「激走モンブラン!」を見た時から気持ちが変わりました。スキー場以外は日本の山しか知らない自分にとって,信じられないような美しい景色の広がりと,そこに参加されている選手たちの表情(笑顔あり,苦痛あり,全ての人間の表情が数十時間の間に繰り返され凝縮されているように感じました)に感動してしまい,このレースには参加しないといけないと思い込み,情報を集め始めました。
 いろいろな出場条件(エントリーに関して抽選やら予選レースやら,いかに休みを取るかなど色々とあります)をこのレースへのチャレンジを機会に知り合った友人たちの助けのおかげで無事クリアして2010年8月末,無事にフランスはシャモニーのスタートラインに立つことができました。うちの奥方とも一度のわがままとお願いして挑んだレースでしたが,あろうことか21キロ進んだ第1関門時点で悪天候のため中止になってしまいました…。
 この後,翌朝からスタートをイタリア側のクールマイヨールに移動し約88キロのレースとして後半部分を走れたのですが,21キロ+88キロの距離では満足度も十分ではなく帰りの飛行機の中ではすでに翌年への課題を考えながら1年間の宿題を抱えての帰宅となりました。
 一年が経ち2010年に参加し友人になった方の多くが2011年のスタートに立てたことは自分にとっては幸せなことでした。この年は3月11日に東日本を襲った大震災があり,多くの日本人参加者は日本の元気さをアピールすることを決意していました。
 装備に関してなどしっかりと作戦もたて,今年こそはと2011年8月26日午後6時30分のスタート時刻を待っていると,なんと低気圧が抜けるのを待つためスタート時刻を5時間遅らせると事務局から連絡が入りました。「まさか,またかよ」などと思いつつも,ここは2回目,慣れたもので暇をつぶしながら体を休め,小雨の中をなんとか午後11時30分,無事にスタート。昨年中止になったサン・ジェルべ(21キロ地点)を通過してここからが宿題の答え合わせとまだまだワクワク気分です。途中のボノム峠(45キロ地点標高2,443メートル)付近は吹雪いていて美しい雪景色を楽しみながらも,滑る雪面に注意しながらゆっくりと走ります。
 冬景色と夏景色を繰り返しながら17時間ほどで昨年の再レーススタート地点のクールマイヨール(78キロ地点)に到着。残りの時間(29時間)と昨年の同コースでの経験(19時間台で完走)から怪我さえなければ完走はできるのではと甘い考えが出てきた瞬間でもありました(予想通り考えが甘かったです)。
 その後も順調に補給と短い休養を取り,フラフラながらもシャンペ湖(123キロ地点)に到着,先着していた友人たちにも会いホッとしたのも束の間,悪天候の影響でコースの大幅な変更があり(しかもトータル距離,獲得標高共に若干増えている)と知らされ唖然!
 計画の変更を余儀なくされ休憩もほどほどに知らないコースへと放り出されました。ここからの47キロは果てしなく下り,果てしなく登るを繰り返しで距離は伸びないのに時間と疲労は重なっていく厳しい時間帯になりました。すでに30時間以上も睡眠を取らずに動き続けているのでエネルギーは枯渇しているのですが薬を飲んでいても胃腸の動きがどうにも悪く,膝痛も重なり,どうにもペースが上がりません。それでもゆっくりと進み,残り15キロほどの街中に出ると他のレースに出ていた知り合いや応援に来ていた日本人の方に「完走おめでとう!」と言われ終盤という実感がわいてきました。とはいえ,相変わらず歩みは鈍くトボトボと進みます。数時間後にようやくシャモニーの街中に入ると本当に多くに方々に迎えていただきゴールまでの数分はかつてない興奮と感動が湧き上るのを感じられました。
 長かった?旅はおわりました。日本に戻る飛行機の中では下半身の激しいむくみと痛みに悩まされましたが,ある意味心地好い疲労でもありました。
 UTMBを機会にお知り合いになれた日本人のトップトレイルランナーの鏑木 毅氏に教えていただいた「楽しむ勇気!」(どんな苦しいことでも乗り越えていく楽しみがある,その苦しみは勇気をもって楽しめ!)をモットーに,世界には砂漠のマラソンや,果ては南極のマラソン。もっというならエベレスト登山まで遊びの延長でできることがいっぱいありますのでこれからも新しい遊びを見つけながら楽しんでいきたいと思います。
 最後にテンションはだいぶ下がっておりますが2014年もアイアンマンジャパンをはじめ,いくつかのレースを楽しんでいます。一応仕事も歯科医師会会務もそれなりにはこなしているつもりですのでこちらの方もよろしくお願いいたします。

2011年UTMB 結果

  • 総距離 169.90Km
  • 累積標高 9,586m
  • 参加者 2,369名
  • 完走者 1,133名
  • 完走率 47.83%
  • 参考日本人完走率 51%
  • 大多和昌彦 43時間31分45秒 846位

(大多和 昌彦(平成元年卒))