巻頭言/つなげていこう未来へ

副会長 佐々木葉子
副会長
佐々木葉子

(東京歯科大学同窓会会報 令和7年6月号/第440号より)

 冨山執行部発足1年が過ぎ,本年は,同窓会創立130周年記念事業として,高山・血脇両先生の墓参,8月31日には,式典・講演会・祝賀会,9月には130周年記念全国ゴルフ大会,などさまざまな事業が開催されます。
 今回の130周年記念事業のテーマは「つなげていこう未来へ」に決まりました。以前,巻頭言で,『同窓会を通じてたくさんの人との出会いや経験をしていただきたい,そして人としての引き出しを増やしてください,いつかきっと役に立つと思います。』あの時期ちょうどコロナ禍で,そんな状況でも同窓会だからこそできることがあるのではないかと書かせていただきました。さて,今ここで「つなげていこう未来へ」というテーマのもとで同窓会では何ができるのだろうかと考えてみました。
 昨今の社会情勢は急速に変化し,ネットを開けばどんなことでも教えてくれますし,AIの発達, ChatGPTでは,タイトルを入れれば原稿も書いてくれます。AIは,さまざまな利点がありますが,他者の気持ちを汲み取ったり,感情の理解,相手に寄り添った人としての温かみ,文化的な背景を理解したコミュニケーションや,臨機応変な対応や新しい事例には難しい領域です。医療の未来では,AIの弱点を理解し,AIと人が協力して,より良い医療を提供していくことが大切だと言われています。
 これまで,人として医療人として諸先輩方が培ってきた伝統や医療技術など,本当に素晴らしいものがあります。現在,何気なく行っている医療には,何十年も前から継承されてきた技術があり,その後ろには何人もの想いや研究が積み重ねられているはずです。そして,患者さんに寄り添い,笑顔になってほしいという歯科医師としての想いがあるはず…。
 その昔,私が医局員だった頃はコピーやFAXがやっとで,携帯電話やPCなんて考えもできませんでした。論文の原稿は手書きで,一度間違えると最初から書き直しでした。病棟のピッチはありましたが,病棟以外の先生を探すためには学内を走り回り,一度学外に出れば連絡の取りようがなく途方に暮れたものです。そんな医局員時代を送った私たちには今の若い先生方の考えや状況は計り知れないものです。
 ただ,今も昔も変わらずに私たち歯科医師がつなげていきたいのは,より良い医療を提供すること,患者さんの,そして自分たちの笑顔が続くこと。そのためにも,たくさんの人に出会って,色々なことを経験し,そして積み重ねて,つなげて,素晴らしい未来を作っていって欲しいと思います。
 「棚からぼたもち」と言う格言があります。努力もせずに有益な結果を得るというネガティブな意味に捉えられがちですが,私はこの言葉が好きです。なぜなら棚の下まで歩いて行かないとぼたもちは拾えないから。自分で棚の下まで歩いて行って,一生懸命取り組むから,おいしいぼたもちが拾えるのです。昨今では社会も変わり,様々なことが発達して,手書きの論文を書いていた時代に比べれば,目覚ましい発展です。ですが,一歩踏み出し何事にも一生懸命取り組むと言う事は自らが行わないとできません。
 未来は誰にもわかりません。きっと血脇先生も高山先生も,一歩ずつ,少しずつ積み重ねてつなげてきたのだと思います。
 私たち同窓会に,何ができるのか…。答えは簡単に見つかりそうにありませんが,これまでの想いを継承し,医療人として人として奥行きのある人生を送ることができるように,これからも同窓会として模索を続け,先生方を応援し,惜しみない支援を続けていきたいと思っています。是非,先生方のアンテナを広げ,人としての引き出しを増やすためにも同窓会を活用していただければと思います。そしてその一歩ずつを,素晴らしい未来につなげていってほしいと願います。