常任理事
佐藤 亨
(東京歯科大学同窓会会報 令和4年10月号/第429号より)
本年6月に,東京歯科大学を退職し,太陽歯科衛生士専門学校の校長に就任しました。最近のことですが,様々な専門職を育成する専門学校の会議に出席しました。この会議には,調理,インテリア,トリマー(動物美容),美容師,幼稚園教諭,観光などと歯科衛生士を養成する11の専門学校の理事長・校長らが参加しました。議題は,自分の学校にいかに学生を集めるかでなく,それぞれが関わる業界の魅力をいかに受験生にアピールし,いかに多くの人にその職種に関心を持ってもらうか,でした。この課題はどの職種の専門学校も悩んでおり,各職種でその特徴を生かしたいろいろな工夫が紹介されました。
2017年に東京歯科大学の歯科衛生士学校が短期大学として水道橋に移転し,私も,この5月までの約2年間,その副学長として勤務いたしました。短期大学の昨年の受験倍率は3.09倍で,今年の入試ガイダンスにも多数の受験生が来校しているとのことで,うれしい限りです。現在の勤務先である太陽歯科衛生士専門学校も,昼間部・夜間部それぞれ毎年募集定員の80名の学生が入学しております。首都圏では,ここ数年で数校の歯科衛生士養成校が新設されております。その一方で,定員割れが生じたり,募集定員の削減や募集を停止する学校もあり,淘汰が進んでいます。このように歯科衛生士養成校の新設があるものの,「人気職業ランキング100」や「なりたい職業ランキング」などにおいて,医師,看護師,薬剤師などの医療職は常に人気がありますが,残念なことに歯科衛生士は上位にランクインしません。口腔内衛生状態の管理のみでなく,周術期の口腔管理,インプラント処置後の口腔管理など多くの活躍の場がある歯科衛生士という職業ですが,歯科衛生士不足に直面している先生方も多いと聞いております。この歯科衛生士不足に対しては,我々歯科衛生士学校関係者の努力や歯科衛生士会の活動のみでなく,歯科医師会を含めた歯科業界全体で,さらなる対策を立てる必要があるのではないでしょうか。
一方,最近,コンピュータを活用した,いわゆるデジタルデンティストリーが急速に普及してきました。歯科補綴領域における最たるものが口腔内スキャナーの実用化,CAD/CAM法による補綴装置の製作,データの共有化と保存などです。これらにより補綴歯科治療のワークフローが大きく変化しました。しかしながら,このデジタルデンティストリーによりすべての補綴装置が問題なく先生方に供給されるわけではなく,歯科技工士が不要になるわけでは決してありません。まだ今でも歯科技工士が作る補綴装置が診療の半分近くを占めています。このような状況の中,歯科衛生士不足と同様の問題が,歯科技工士においても生じています。すなわち,歯科技工士学校への入学者数の減少に伴う歯科技工士不足です。現状では,補綴装置をデジタルデンティストリーで製作する場合においても,熟練した歯科技工士が製作過程に関わることで,より質の高い技工物が製作されることになり,患者さんの咬合・咀嚼に調和した状況に仕上げる歯科医師の大きな助けとなっています。したがいまして,歯科技工士の不足についても歯科業界全体で急いで考えていく必要があります。
現在では,歯科医師,歯科衛生士,歯科技工士によるチーム歯科医療によって,質の高い歯科医療を患者さんに提供しております。もしも,歯科衛生士,歯科技工士の不足が進みますと,診療器具の滅菌・消毒管理,患者の口腔内管理,技工物の製作など,歯科診療のほとんどすべてをひとりの歯科医師だけで行っていた50年以上前の状況を思い浮かべてしまいます。それが現実とならないことを祈ります。