副会長
梅村 長生
(東京歯科大学同窓会会報 平成22年10月号/第378号より)
ハーバード大学サンデル教授の正義を巡る講義や著書が話題沸騰となっている。1980年代から世界はIT化によるグローバリズムの進展に伴い,個人主義,市場主義,実力主義的考え方が蔓延していった。この風潮は,社会保障・医療制度の政策に色濃く反映され,その中で日歯や同窓会もこれらの主義に巻き込まれ,不幸な事件となった。これらが,金融崩壊を招いたことで改めて人びとが,「人生を生きる価値あるものにするには,どう生きるべきか」を問い始めたことが,サンデル教授の提起への白熱した議論となっているに違いない。
では,時代の流れの速い,構造転換の進む社会の中にあって,「同窓会とは何か」,この問いに執行部は真剣に向き合っている。
しかし,リベタリアンが多い若い人に対して,個人の自由と共同体の利益という対立する軸を「よりよい同窓会」を作るという理想だけで理解を得られるかは疑問である。したがって,同窓会改革検討特別委員会は,改革に向けて組織強化,大学との連携強化,事業改革,若手対策,機構改革など多面的な改革案を提言した。その内容は傾聴に値するものばかりである。
同窓会組織が組織として会員に認識されるには,(1)コミュニケーションによって共有する世界が一緒である,(2)関与する人びとの交替によって左右されない持続性がある,ということである。そのためには,こつこつと会員に対し,各種の情報を提供し,同窓会の主張の説明責任を果たしつつ,同窓会の将来への夢を語ることだと思う。
日本の社会保障制度は,その財源のあり方をめぐって,公助,互助から自助,自立への方向へと政策,法律の転換を強めつつある。地方主権の根本は,広域行政のワクを拡げつつ,地方は地方の努力による自立を促すものである。それでは,地域のセイフティネットが弱くなるので,医療は中学校単位でのネットワークを構築し,病院に収容できない人を在宅医療で見取る政策を推進する。社会保障カード(仮称)は年金や医療保険などの社会保障情報と組み合わせ,税務や行政全般の情報管理のリスクやコストを少なくしようとするものである。その意味で,究極の個人情報である疾患の治療経過を検査データも含め一元管理するレセプトオンラインは,国家の管理の共通番号制度の根幹をなす。
同窓会組織はこういった情報を提供しつつ,知識づくりが中心となったインターネット活用の情報社会の中で,人と人との関係作りを社会資源とする仕組み革新を目標としている。今回の改革はサンデル教授の目指す「異なる意見に耳を傾けつつ,道徳的に正しい善良な生き方を探りながら,市民が共通善を語る」ことに通じるような組織改革を目指している。「大事を済すにはかならず人をもって本となす」(三国志)のごとく,同窓会の組織力づくりは,まず次世代の「人づくり」を基本としたい。