巻頭言/遺産と資産

副会長 宮地建夫
副会長
宮地建夫

(東京歯科大学同窓会会報 平成26年6月号/第396号より)

 現在,支部に属する一般会員は高齢会員などを除くと4,500余名。

 108支部のなかで100名以上が7支部,逆に29支部は15名に満たず,その内の10支部にいたっては10名以下となっている。この支部格差を時代の流れとして諦観することは易しい。だが,この現実を見据えて将来の同窓会をどう捉えるか考えることこそが,今,私たちの課題ではないか。

 会員の少ない支部は,会計基盤も弱く支部活動が極度に制約を受けることは容易に想像できる。同じ同窓でありながら,地区歯科医師会等での立場が各支部によって差が生じていることに加え,親睦の機会,学術交流,冠婚葬祭等の諸々の情報交換が極度に制約を受ける現実は看過しがたい。支部会員数のバラツキは単に量的問題ではなく,そのことが同じ同窓会員でありながら,享受可能な権利という質的格差に繋がっていくことが問題なのだ。

 本来同窓が平等に持つはずの選択肢の幅,リスク対処や回避の可能性すら極端に制約を受けるとなると,単なる心配ごとでは済まされまい。会員間の不平等・不公平感といった不条理な格差は,測るものさしがあるわけではなく,相対的な受け止め方という側面が強いため正面切って不満顔もとりにくく,なかなか表に現れないため見過ごされがちだ。

 実際,どの支部からも不公平感を訴えられたことはないが,同窓会が拠って立つ伝統的な“家族主義”に照らして支部間の格差をしっかり受け止め,さらに広がるかもしれないこのリスクを共有することができなければ,同窓会はその存在価値さえも問われかねない。この格差を抗しきれない流れだとすれば,単なる会費の再分配などで補える部分は限られるだろう。だからこそ,私たちはもう少し,先のことを見据えるべきではないか。同窓会の執行部が進めている構造改革の大きな役割は,実はこの広い意味でのサイレントマイノリティーからのシグナルを見逃さない新しいシステムづくりと位置づけるべきだ。

 もう一つは,有形の見返りがなくても,自分の所属する団体が社会的に誇れる組織として存在し,同じ同窓会員が多方面に指導的な立場で活躍していることが,同窓会組織の大きな証であると受け止められれば,同窓の一員として居心地の良い「居場所」を見いだしてもらえるのではないかという視点だ。事業改革としてのアカデミア構想は,同窓会の次代を担う人材を育成するのが狙いだ。少し時は要するが,歯科医学的にも歯科医療的にも,医政を含め社会的視野を兼ね備えた人間味豊かなリーダーが育成されることが,帰属する同窓会を誇り,距離や人数にまつわる格差を超え同窓会の存在感を公平に享受できることに繋がる。

 すでに,我が同窓には,地域医療を支え後輩のお手本になる優れた人材が全国でくまなく活躍している。この高山血脇先生からの遺産ともいえる“国手”の存在こそがアカデミア構想の構成母体であり,今後長く続く後輩たちの利用可能な資産でもある。