巻頭言/〜 私立歯科大学の抱える問題 〜 入学者の定員割れ
副会長
佐藤 亨
(東京歯科大学同窓会会報 令和6年10月号/第437号より)
同窓会報2022年10月号に「歯科衛生士がいない!歯科技工士も?」という題で巻頭言を書かせていただきました。2024年度は,大学・短大・歯科衛生士学校などの歯科衛生士養成校では,入学定員10,069人に対して入学者は8,007人で,昨年度よりも減少しています。また,全国183の歯科衛生士養成校の134校(73%)が,定員割れとなっています。一方で,2000年に全国で約70あった歯科技工士養成校は,2025年度には44校になってしまいます。
少子化による若年者人口の減少に伴い,首都圏では数年前から公立高校の統廃合が進んでまいりました。高校生が減っているのに,大学の入学定員は微増です。簡単に言いますと,「大学に入学しやすい」状況になってきています。これによって,これまで専門学校を目指してきた受験生が,専門学校ではなく大学への入学を目指すようになり,また高校でも進学実績を上げるために,そのような指導をしているところもあるようです。
大学,特に歯学部・歯科大学に目を向けてみますと,2024年度は私立歯科大学17大学中,入学者数が募集定員を満たしたのは8大学のみで,9大学が定員割れとなっています。人数でみますと,約1,800人の入学定員に対して,約1,500人(84%)の入学者で,約300人の定員割れでした。私が東京歯科大学に入学したころに比べて,歯学部・歯科大学に入学することは容易になってきております。しかしながら,入学志願者が減るということは,大学教育の質の確保という点で,大変な問題です。国外からの留学生を積極的に受け入れて,入学定員の充足を図ろうとしている大学もあると伺っております。幸い,東京歯科大学は,井出理事長,一戸学長をはじめとする大学関係者のご尽力により,入学定員を大いに上回る受験生に恵まれております。
アジア・欧米の多くの国において,歯科医師は今でも魅力的な職業として認知されており,歯科大学への入学が困難な国も少なくありません。そのため,前述のように日本に留学するということも起こっています。残念ながら,日本では歯科医師という職業に魅力を感じている受験生が少なく,これが入学定員割れにつながっているように思います。
冨山雅史同窓会会長が就任のご挨拶で,「歯科界の低迷が続く中,本学同窓会会員が歯科医師としてのプライドをもって良質の医療を国民に提供していくにはどうすればいいのか」と問いかけております。とても難しい課題ですが,われわれ歯科医師は医療の一翼を担う職業人として,国民,とくに未来を背負う若者が,歯科医師の使命を理解し,その魅力を感じるように努めなければならないと思います。あらゆる機会を通して,我々歯科医師自身から,そのことを発信することが大事ではないでしょうか。