音楽に導かれて/竹元 ゆうき(昭和57年卒)

 写真(1)は,昨年の12月2日に日暮里サニーホールでのコンサートに出演した時のものです。
 約20年程前になりますが,ひとり息子が通っていた幼稚園の聖マリヤ教会で出会った美しい教会音楽に惹かれ,趣味として声楽を学ぶようになりました。当然のことですが,当時はまさか,このようなオーケストラをバックに,バッハやモーツァルトを歌うなど思いもよらぬ事でした。
 そもそも音楽歴はといえば,小学1年生から中学1年までピアノを習っただけ。しかも練習が嫌いだったので,ほとんど上達しませんでしたし,カラオケも苦手,音楽とは無縁の人生だと思ってきたのですが,声楽を始めてからというもの,心の底から湧き出る音楽への愛に目覚め,導かれていきました。

 とは言っても,子育ての最中でもありましたし,そもそも歯科医師として日々忙しく診療する傍らの単なる趣味ですから,門下の発表会や,ジョイントコンサートに参加したり,時折両親や身近な方々を招いて小さなサロンで音楽会を開いたりして,楽しんでおりました。

 転機となったのは両親の介護でした。父が入院していた市川総合病院のロビーで,器楽アンサンブルの演奏が行われていました。病院でこんなことをしているという事を私はその時初めて知ったのですが,あの広々とした吹き抜けの素晴らしい空間にもかかわらず,もったいないことに,観客は数人まばら,演奏者の方々も黙々と演奏して,お世辞にも楽しいコンサートとは言えない状態でした。地元生まれ,公私ともに地域に根を下ろしている同窓の身としては,これはもったいない,もしかしたら私にも何かできるのではないかと,早速行動を起こしていきました。目標としたのは,演奏を披露する場ではなく,外来入院の患者さんはもちろんのこと,友人や地元の方々,病院職員に至るまで,そこに居るすべての人が参加して,音楽と笑顔に包まれた楽しい空間を共に味わいたいという事でした。行動を起こしてから約1年,はからずも,たまたま母の入院中に,機会をいただくことになり,大勢の方にお集まりいただき,コンサートは大成功!入院中だった母も大喜びでした。私の主催するアンサンブルMINIはその後,毎年出演させていただけるようになり,昨年には市川総合病院開院以来,26年間続いてきた「午後のリサイタル」の記念すべき第200回を担当させていただくことができたのです。

 私にとっての音楽はこの頃から,自己満足の趣味に留まらず,社会性を合わせ持つようにもなっていきました。両親がお世話になっていた老人ホームのボランティアコンサートを引き受け,朗読や,一緒に歌うことやリトミックなどの音楽療法を取り入れたり,嚥下や咀嚼に関連する運動指導をしたりと,音楽と医療,介護の連携を深めていくことに努めてきました。
 先だってコンサートのアンコールに唱歌「ふるさと」を参加者の方々と一緒に歌ったあとで,声をかけてくれた患者さんがいました。
 「僕は明日退院するんだけどね,この病院ではこんな風に心のケアまでしてくれるんだね,ありがとう!」その言葉は,私たちメンバーにとって一番欲しかった,何よりのご褒美となりました。地道な日々のレッスンや練習を続けてきた趣味が, ささやかながらも,人の役にたてたのかもしれないと思うと,この上ない喜びを感じました。

 卒後36年,還暦を過ぎた今, これからもゆっくりと現役の日々を続けようと思います。親から受け継いだ私の小さなクリニックでは数十年前からの多くの患者様と世代を越えてのお付き合いをさせていただいていますが,幸いなことに,優秀な若手ドクター達が育ち,ベテラン技工士,衛生士,専任スタッフも揃っています。チームワークの素晴らしいスタッフに囲まれていることに感謝しつつ,自分にできる理想の診療を目指してまいります。
 また声楽の師匠にも「まだ伸びシロはあるよ」と言われ気をよくしていますので,音楽活動の方も更に進化させたいと思うこの頃…これからも,ちょっと先を行くエネルギッシュな諸先輩方の背中をお手本にしながら,マイペースで歩んでまいります。