巻頭言/2023年初に思うこと

監事 古澤成博
監事
古澤成博

(東京歯科大学同窓会会報 令和5年2月号/第431号より)

 皆様,あけましておめでとうございます。今年も何卒宜しくお願い申し上げます。同窓会は,澁谷会⻑の下で船出をしてから早3年が経過しました。思えば2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の流行は,これまでの私たちの生活をことごとく変えてしまいました。最近でこそ,少しずつ元に戻り始めた様子が垣間見られるものの,インフルエンザの流行が追い打ちをかけて,日々周りの知り合いの誰かが新型コロナかインフルエンザかに感染している状況が続いています。さらに地球温暖化によって毎年起こる未曾有の災害にも直面しており,加えて昨年は,2月から始まったロシアのウクライナ侵攻によって世界情勢も一変し,今まで当たり前に過ごしていた平和な時代が,いかに尊いものであったかを思い知った1年でもありました。私は趣味でクラシック音楽を聴くのですが,3年ぶりに年末に演奏会が開催された「歓喜の歌」で有名なベートーヴェンの第九も,今はどちらかというと19世紀末の憂鬱な時代を生きたマーラーの第九の心境,すなわち精神的に落ち込み,厭世気分が勝ってしまうことのほうがふさわしく感じられます。さらに大好きだったロシア音楽も,何となく敬遠して聴かなくなってしまいました。多くの大芸術家を輩出したウクライナやロシアの現役の音楽家たちの状況も一変してしまっていることが推察され,とても美しいメロディーを楽しむ感情が湧いてきません。2019年末の新型コロナ流行前,最後に聴きに行ったコンサートが,奇しくもロシアの世界的指揮者ゲルギエフ率いるマリンスキー劇場のオーケストラが奏でるチャイコフスキーでした。恐らく将来,もうロシアの団体の生演奏を聴きに行くことなど,難しいのではないかと思います。一人の狂人のために,芸術の世界を含めたあらゆる世界情勢がひっくり返ってしまいました。非常に悲しい事態です。しかし,絶望に寄り添うのもまた音楽です。今後は芸術との向き合い方も変わってしまうことでしょう。
 このような時代背景から,どう考えても明るく希望に満ちた未来になるとは今のところ考えにくく,それは若い世代でも同じ感覚であると思います。若い先生方に直接話を聴いても,なかなかプラス思考で考えられる人は少ないように思います。大変気の毒です。最近では物価も上昇し,食糧危機も囁かれ,何もかも不安定な状況が続いています。あるシンクタンクの調査では,今年は食品値上げによる家計負担額が一家庭あたり10万円近くになるとか。また,社会保険料の増額や増税が追い打ちをかけ,ささいな節約による生活態度の見直しが喫緊の課題とされています。このような中で,国民が歯科にどのくらいの費用をかけても構わないと考えるのか,とても気になるところです。
 ところで,母校同窓会について臨床研修歯科医に尋ねたところ,「特に同窓会に思い入れはないけれど,会費は払わなければいけないと思うから払うだけ」だそうです。2021年初の新進会員のアンケートでも,約3分の1の会員が,新進会員のつどいや同窓会の活動に興味がないか関心がないと回答しています。これは世代による情報収集の方法の相違にも大きく関係しているかと思います。今の若者は何もかもスマホから情報を収集し,時にYouTubeなどを使って楽しみながら情報を集めています。現在,広報委員の先生方が多大なご努力をされておられますが,今後若い人たちが気軽に入り込める環境をさらに整備しないといけないかもしれません。ただ,そうなると今度は私を含めた高齢者世代が取り残される現象が起きることも懸念されます。そこをどのように調整していくかが今後の課題ですが,若い先生方と高齢の先生方の興味あるコンテンツに相違がありますから,意外と簡単に住み分けができそうです。コロナ禍で良かったことの1つが,オンライン会議やオンライン講演会が常態化したことでしょう。以前には考えもしなかったことが何とか実施可能となり,離れた世代,離れた場所での交流が,いとも簡単に自宅や診療室に居ながらにして出来るようになりました。大学での講義や地方の同窓会の講演会など,当たり前のようにオンラインで実施されるようになりました。このツールは,今後,今以上に大いに活用されるべきでしょう。若い世代の,いわゆるYouTuber的な人材を発掘して協力してもらい,積極的な同窓会のオンライン活動を行うチャンスでもあります。ある程度の予算は必要になるかと思いますが,まさにピンチをチャンスに転換する時です。ぜひ,若い同窓の先生方の積極的な参加をお願いしたいと切に願っております。
 私も早いもので定年まであと1年となりました。現在,同窓会監事としてお世話になっておりますが,今後,若い勢いのある先生方の活躍を見守ることができる日が来れば望外の幸です。
 暗い話題が多く気持ちが塞ぎがちですが,どうか皆様方一人一人が小さな希望を持って,日々わずかも楽しみを見つけて前進して頂ければ幸いです。今年は,何とか少しでも穏やかな方向に向かう1年となりますよう願ってやみません。