野間弘康先生 瑞宝中綬章叙勲祝賀会の開催(同窓会報408号より)

東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座
柴原 孝彦(昭和54年卒)

 2016年に本学からのご推挙を受け恩師野間弘康先生の叙勲申請をさせていただいたところ,同年11月に皇居において瑞宝中綬章の受賞の栄誉に浴されました。先生のこれまでのご功績が,叙勲の栄誉として認められましたことは,私どもとしましても大きな喜びであります。ご推挙いただいた本学理事長・学長先生を初め関係各位に心から御礼申し上げます。
 これを受け本年4月6日夕刻,帝国ホテルにおいて叙勲祝賀会を,口腔外科学教室および精到会(教室OB会)主催のもとで開催いたしました。学内からは水野理事長,井出学長を初め,名誉教授,現役教授,ご同級の先生,そして山岳部の方々の参加をいただきました。学外からは現役時代に大変お世話になった森 昌彦先生(元朝日大学教授),工藤逸郎先生(元日大教授),口腔外科学会で共に戦った瀬戸皖一先生,今井 裕先生を初め多くの先生方にもご出席いただき,総勢200余名の皆様によってとても厳かかつ楽しい祝賀会を開催することができました。ここに改めて,主催者を代表して心から感謝申し上げます。
 野間先生の現役時代におけるご活躍とエピソードには枚挙に暇がありません。まさに教室員は皆,先生を慕い讃え,一丸となって歩んでいたことが思い出されます。中でも昨年刊行された,野間先生の集大成となる「イラストでみる口腔外科手術全4巻」は我々にとっても大変な喜びであります。思い起こせば,週に一度の抄読会で当時の口腔外科のバイブルであったNaumannのドイツ語原著を訳すのがノルマでした。事あるごとに野間教授は「将来,この本を越える手術書を作ろう」とドイツ語に悪戦苦闘する我々を鼓舞叱咤していました。口腔外科手術学に関する従来の成書では,診断と形式的な手術術式が述べられているのみで,手術を実施する際の“Science and Skill”を基本として編集されたものはなく,手術術式についてわかりやすいイラストを用いて明快に解説したものはみられません。先生の卓越した描図のご才能によって2000枚以上のイラストが組み込まれています。この書は臨床家が育つ過程で大きな役割を果たすことができるものと信じます。まさに先生のphilosophyとpolicyが凝集した著書と言えます。ご退職されて10余年を掛け,昔日の思いを達成されたことに敬意と感謝の気持ちでいっぱいです。
 先生のご威光は口腔外科,歯科医学界のみならず,山岳分野においても名声は轟いています。北穂高岳の滝谷,奥穂高岳ジャンヌダルムの岩壁に「東京歯科大ルート」があり,野間先生が前人未踏の難ルートを開拓されたものです。恐ろしく危険なルートのため続く登攀者は少ないと聞きますが,野間イズムの一端が山岳の記録にも残されています。
 弟子の一人である白須賀貴樹衆議院議員のお祝辞に「ヒトは名を遺す」逸話を紹介され,野間先生のご実績と業績を高く称えていました。まさに先生は多くの大切なものを私どもに残していただきました。私たちは,大学校歌のごとく,野間先生に「見えん」「繞らん」「讃えん」そして「護らん」の機会を与えられたこと,これ以上の誉はありません。
 これから先生におかれましては少し休息をお取りいただき,歌子夫人そしてお嬢様方と楽しい時間をお過ごしいただければと思います。野間先生ならびにご家族様のますますのご健勝とご多幸を心からお祈り申し上げまして,叙勲祝賀会開催の御報告とさせていただきます。