学術担当常任理事
宮地 建夫
(東京歯科大学同窓会会報 平成21年12月号/第373号より)
【われわれ歯科医師に対するプロフェッショナルとしての社会的要請は不断の学習と陶冶を求めておりそれに対応する生涯教育即ち卒後研修のあり方は歯科医療をめぐる諸問題のなかでも枢要な課題となりつつあります。そのなかで同窓会活動の一環としての学術部事業のすすめ方も検討が要する時が来ました】
TDC卒後研修セミナーの始まりを告げる当時の学術担当の書かれた一節です。34年前になります。しかし「学術部事業のすすめ方を検討する時が来た」というその時は“今”を指しているように思えてなりません。’73年中東戦争・オイルショック,米国のウォーターゲート事件。’74年公害問題を取り上げた有吉佐和子氏の「複合汚染」。’75年ベトナム戦争終結という社会背景のなかで「卒研」はスタートします。「総合的視点に立った歯科診療」「たて糸・よこ糸論」という考え方の柱は要素の複雑な絡みという意味で複合汚染やベトナム戦争と共通していました。その翌年「歯の110番」で歯科は社会的な批判に曝され,ロッキード事件によって田中角栄前首相が逮捕されます。そうした背景からか“卒研”の年間テーマは「信頼の歯科医療」「社会との調和」をうたい,まさに「学習と陶冶」の両面から系統的・総合的な課題に取り組みます。
80年代は患者の意識革命の波が米国から押し寄せてきました。それが“卒研”の視点と一致したこともあって実に400人以上の受講者参加でにぎわいます。しかし90年代に入りバブル崩壊で事情は一変し,5年後に受講者半減,97年から経団連ホールからの撤退は“卒研”のスタイルを根本的に変えざるを得なくなります。
少人数ディスカッション,実技研修を取り入れ,対象も比較的若手よりにシフトしました。この方向転換は好評でセミナーによってはキャンセル待ちがでるほどですが,チュトリアルや実技研修では学術委員に加わる負担は膨大で,しかも委員の質や精神的なタフさが要求されます。そのため内部研修が必須で現在でも繰り返し続けられています。
21世紀の今日100年に一度の世界経済危機です,“卒研”の歩んだ経緯からみて,間違いなく今,新たな試練と向かい合っています。加えて臨床研修医制度によって初期研修の場が流動的になり,同窓意識の希薄な若手が増えているようです。そうした心配ごとを前に「学術部事業のすすめ方を検討する時が来た」という34年前の先輩の言葉が私たちの耳元で聞こえてくるわけです。
しかし実はそれほどは心配しておりません,セミナー運営の間隙をぬって,学術事業の将来像を常に内部課題として積み上げています。学術部委員会は頼もしいメンバーです。むしろそのことをこの場をお借りして会員の皆様にお伝えしたかったのです。