2020東京オリンピック(同窓会報第426号より)

片野勝司(平成元年卒)

 2020東京オリンピックにレスリング(幕張メッセ)での競技者対応のメディカルスタッフとして参加しました。私が参加に至ったのは,IOCから選手に対しての救護チームに,レスリング競技に精通した歯科医師を加えて欲しいとの依頼が組織委員会にあり,日本レスリング協会(JWF)スポーツ医科学委員会のメンバーでありJOC強化スタッフ(医・科学スタッフ)でもあるスポーツ歯学研究室の武田教授と私が推薦された事によります。本大会では,同教室の中島准教授・河野非常勤講師の4名で歯科スタッフとしてシフトを組み救護にあたりました。
 活動に際して,組織委員会の十数時間に及ぶe ラーニングを中心としたオリンピックでの活動に向けた様々な研修を受けて臨みました。その研修の中で感染対策ではエボラ出血熱とノロウイルスなどの消化器感染症への対策で,救急医療のコンテンツの各論では爆弾テロでの爆傷や銃創,化学テロでの急性中毒トキシドロームへの対応に時間が割かれていました。これらの受講で,医療スタッフの多くが,開催地に「TOKYO」と決まった時点で最も「安心・安全なオリンピック」だと思ったのではないでしょうか。
 私たちですら苦しかった延期からの1年間。あの厳しかった予選を勝ち抜いて代表となった選手たちは,想像ができないような, 本当に苦しく・不安な思いをしていたと思います。そのような中で前を向きベストを尽くして戦い,開催への感謝の言葉まで発する選手たちの姿に,今でも感動とリスペクトの思いでいっぱいです。
 また,レスリング医療チームでは,「日本のスポーツメディカルの底力を魅せる!」を合言葉に,国内大会の度にマット上からの搬送トレーニングを反復していました。私たち歯科医師は,オリンピックでは重症例に対する歯科処置が必要な場合を除いてルール上マットへ上がる事は出来ませんので,医務室における歯科関連外傷への対応とマット下から救急隊への引渡しが主な業務でした。本大会では,口唇からの出血が数例ありましたが,マット上の処置で済み私たちの出番はありませんでした。しかし,国内の他の大会では味わえないオリンピックならではの,お国柄を滲ませた来室者や新型コロナウイルス感染症対応など様々な貴重な経験をすることができました。
 このオリンピック参加にあたり,代診として診療してもらった長男やサポートしてもらった家族,スタッフ,そして充実した楽しい時間を「ONE TEAM」として過ごさせていただいた医療サービス部のリンデマさん,AMSV(Athlete Medical Supervisor)の増島先生をはじめとしたレスリング医療チームの全員に感謝したいと思います。
 アラカン歯医者の「真夏の大冒険」は終わりましたが,この大冒険は,あまりにも刺激的な時間でした。一息入れて,次の冒険に出発したいと思います。