愛知県支部/阿部二郎先生学術講演会

 7月12日(日)14時より,愛知県歯科医師会館にて平成27年度東京歯科大学愛知県同窓会学術講演会が開催された。我が国では平均寿命の延伸,人口の高齢化に伴い,顎堤吸収が著しい等の難症例の総義歯患者さんが増加しており,私共の日常の歯科診療に於いても,対応が必要となってきている。特に口を開くたびに浮き上がってくる下顎総義歯を診るほどのストレスはない。そこで今回,愛知県同窓会では総義歯の講演会を多く手がけ,下顎総義歯吸着理論で有名であり,若手の先生方からもリクエストが多かった東京都調布市で開業している阿部二郎先生をお招きし,「無歯顎補綴の現在から未来~吸着義歯,インプラントオーバーデンチャー,そしてCAD/CAMデンチャーの未来~」をテーマとして学術講演会を開催した。
 講師の阿部二郎先生は,昭和56年東京歯科大学卒業で筆者と同級生であるが,大学卒業後,大学院,医局に残らず,義歯の作成,研究では有名な矢﨑歯科医院に勤務し1982年阿部歯科医院を開設,独学で研究し,「下顎総義歯吸着理論」を導き出し,講演会,セミナー等で活動してきた先生である。本日も通常のスライドだけではなく,動画,アニメーションをふんだんに使いとても分かり易い講演会であった。

【講演要旨】

 1960年代にBoucher COがアクリリックレジン製の個人トレーとスティックコンパウンドを用いた印象採得法を報告して以来,1980年には義歯材料の進歩も相まって上顎義歯を顎堤に吸着させる方法が確立した。一方,下顎全部床義歯においては,ティッシュコンディショナーを用いて耐圧面積を拡大する方法やニュートラルゾーンを用いた人工歯配列などが紹介されたが,下顎義歯の開口時の浮き上がりの問題は解決できなかった。その為,独自で研究を重ねたが,大切なのは筋運動ではなく,口腔粘膜で義歯床縁全周を封鎖することに気がついた。印象時に4箇所ぐらい難しいところがあるが,誰でも同じように封鎖する印象が採れる事を目標に講演会等を開催してきた。
 下顎義歯の開日時の浮き上がりの問題に関して,2000年代になるとインプラントオーバーデンチャーの報告が増加し,下顎全部床義歯の治療効果が期待できるインプラントオーバーデンチャーが世界で注目を集めはじめた。しかし,インプラントで義歯は安定するが,全部床義歯では顎関節部の器質的変形の改善が期待できないばかりでなく,顎提吸収もくい止めることができないのが現実である。さらに海外では,CAD/CAMによる全部床義歯製作が始まった。元は歯科技工士の不足,労働時間の改善のために始まったが,この製作方法によって,義歯の不適合の第一原因である石膏膨張とレジン重合収縮がキャンセルされることになり,これまで以上に適合の良い義歯が提供される時代が訪れようとしている。
 最後に恒例となっている懇親会が「アパホテル名古屋錦」の会場に移し行われた。和やかな雰囲気の中,講演会で聞けなかった様々な情報を聞く事ができ,有意義な懇親会となった。

(長谷部 雅志 記)