巻頭言/ライトサイジングへ

宮地建夫副会長
副会長
宮地 建夫

(東京歯科大学同窓会会報 平成22年8月号/第377号より)

 今年5月,ギリシャが財政危機に陥った。次いでオランダとスペインの財政危機も懸念され,事実,その後二つの国の国債の格下げが現実になった。しかし当のオランダやスペインの国民は,昔の生活との比較や経済状態の実感からか財政破綻の切迫感は薄いという。

 ギリシャの労働者は,国の危機をよそに賃金や年金の権利を主張し,大規模なストを行い皮肉にもそれがギリシャという国の信用を落とすことにもなってしまった。権利の主張や既存の生活保全の意識は分からないではない。だが,時の流れと反する権利の主張は,自らが建つ土台ごとの崩壊につながるという構図は遠くからのほうがよく見える。

 EU 全体が半分パニックになっている財政破綻にもかかわらず,当事者の国民には「切迫感や危機感」とは結びつかない現実とのギャップが,離れたところで視野を広げると見えてくるのは興味深い。

 赤字国債の額では日本も負けていない。そして,心配には違いないもののどうも国民の多くは「切迫感や危機感」を感じるまでには至っていないようにみえる。それはヨーロッパの当事者反応パターンと酷似している。

 経済通によれば日本の借金はギリシャやオランダと根本的に違うから危機にはあたらないと説明する。その真偽は別にして,近くでみればいろいろな条件や流れの様が見えるから,都合の良い理屈をつけて「切迫感」から遠ざかれということもあるのではないか。ディテールを見て全体を把握できないということもありそうだ。

 日本に来てたまたま地震に遭遇した外国人はどうしてこんな危険なところに平気で生活できるのか不思議がると聞くが,そうかもしれない。そうかといって「どこにいけばいいんだ」と啖呵も切りたくなる。

 同窓会の将来に思いを馳せる。会費の納入率は悪くはない,なんとか赤字は出さずにすんでいる。しかし,歯科大学の定員は減少圧力が加わっているのが現実だ。国立の歯学部はすでに削減が始まり,母校もそうした圧力と戦っている。

 さらに臨床研修医制度が,卒業直後の選択肢を多様にしたことによって,同窓意識が育つ前に母校から離れてしまうことも危惧される。

 いずれにせよ,同窓会員は右肩下がりの減少傾向にあると考えるのが妥当だろう。「切迫感や危機感」にはほど遠いとは思うが,なにせ見えづらい身内のことだ。少しは先々の姿を俎上に乗せて議論しておくべきかもしれない。

 将来の同窓会の姿を,どの程度の規模や内容にしたいと考えるのか。それには今何をしておかなければならないのか,その中身がほどほど適当(ライト)なのかというライトサイジングへの一歩を今踏み出したい。